遺言書 認知症の相続人に成年後見人をつけられるか
推定相続人の一人が認知症の場合
相続人が認知症の場合、今後の生活などが心配な方が多いのではないでしょうか。
子どもに迷惑をかけたくない。と考えている人も多いと思います。
内閣府の令和2年版高齢社会白書によると、要介護者を介護している人の続柄や年齢を調べた資料がありますので
掲載してみました。
主に家族(とりわけ女性)が介護者となっており、「老老介護」も相当数存在
要介護者等からみた主な介護者の続柄を見ると、6割弱が同居している人が主な介護者となっています。その主な内訳を見ると、配偶者が25.2%、子が21.8%、子の配偶者が9.7%となっています。また、性別については、男性が34.0%、女性が66.0%と女性が多くなっています。
要介護者等と同居している主な介護者の年齢について見ると、男性では70.1%、女性では69.9%が60歳以上であり、いわゆる「老老介護」のケースも相当数存在していることがわかります。
出典:内閣府令和2年版高齢社会白書(全体版)
では、配偶者が認知症の場合、遺言書がなかったとするとどうなるのでしょうか。
遺言書がない場合の相続
遺産の分割方法について相続人全員で話し合って決める場合(遺産分割協議の場合)には、配偶者の相続分を公平な判断ができる人が代わりに話合いに参加しなければなりません。
例えば、父親の財産を母と子供で分けるのに、母の代わりを子供が行なえば、子供が自分の利益だけを優先することもできてしまうからです。
こういった場合には、一般的には家庭裁判所に申し立て、成年後見人を立てます。
子どもが既に成年後見人になっている場合は、子どもに特別代理人を立てるか、子どもに後見監督人を付けなければなりません。
認知症による判断能力が不足している場合に、遺産分割協議を進めた場合、その協議は無効となるため、いくら遺産分割協議書を整えたとしても、後に無効の主張をされたら全てやり直しとなってしまいます。
成年後見人を申し立てることができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族です。成人であれば、原則、成年後見人の候補者としてなることはできます。
気を付けておきたいのは、成年後見人の候補者が成年後見人になれるかどうかは、家庭裁判所が判断するため、候補者である親族等が選任されるとは限りません。令和元年の裁判所資料では、親族が成年後見人に選任された割合は、わずか21.8%で、専門家などの親族以外の人が選ばれる割合が78.2%となっています。
親族等が成年後見人に選ばれない可能性がある場合の主なものをあげておきます。
- 成年被後見人が有している財産が高額な場合
- 親族間に意見の対立がある場合
- 成年後見人候補者が成年後見人から借金しているなど、両者が利害関係にある場合
- 本人と成年後見人候補者との関係が疎遠であった場合
- 親族が成年後見人の不動産を売買する予定があるなど、申し立てとなった動機に重大な法律行為が含まれている場合
- 本人と成年後見人候補者との生活費等が十分に分離されていない場合
- 申し立て時に提出された財産目録や収支予定表の記載が十分でないことから、成年後見人としての適格性を見極める必要があると判断された場合
- 成年後見人候補者が後見事務に自信がない、相談できる人を希望した場合
- 親族が下記の「親族が成年後見人になれないケース」にあたる場合 など
親族等が成年後見人に選ばれない場合は、家庭裁判所が、ご本人にとって最も適任だと思われる方を選任します。
申立ての際に、ご本人に法律上又は生活面での課題がある、ご本人の財産管理が複雑困難であるなどの事情が判明している場合には、成年後見人等の職務や責任についての専門的な知識を持っている専門職が成年後見人等に選任されることがあります。
なお、誰を成年後見人等に選任するかという家庭裁判所の判断については、不服申立てをすることができません。
成年後見人が選任されたら、遺産分割協議書の作成ができますので、相続の手続きができるようになります。
すでに、子どもなどが成年後見人に選任されている場合は、家庭裁判所に後見監督人の選任を申し立てるとよいでしょう。
後見人と本人との利益が相反する行為については、後見人は本人を代理することができず、代わりに後見監督人が本人を代理して取引をすることになります。
ですから、遺産分割協議には、配偶者の代わりに後見監督人が参加することになります。
遺産分割協議後は
成年後見人は、後見される人が不利益を被らないように、財産管理や契約などの法律行為の面からサポートを行うことになります。特に、本人が契約を結んだり、手続きをしたりということができません。程度が重く財産管理も難しいため、サポートする側である成年後見人が重要な契約や手続き、財産管理などを行うことになります。
遺言書がない場合の相続はとても大変だということがお分かりいただけましたでしょうか。
次回は、遺言書がある場合の認知症の方の相続を説明します。