個人事業主の相続対策③ 事業承継税制優遇
個人事業主にも事業承継の税制優遇が創設されました
個人版事業承継税制は、令和元年度税制改正により創設されました。
これを利用する場合としない場合では、贈与税の扱いに大きな差が出てきます。
贈与税は、最高55%の税率がかかるため受贈者(受取る人)に大きな負担となります。
個人版事業承継税制を活用することで、贈与税が実質ゼロになるというのは大変魅力的です。
【対象者の要件】
①承継者が、青色申告(正規の簿記の原則によるものに限ります。)に係る事業(不動産貸付業等を除きます。)を行っていた事業者の後継者※1であること
②後継者が円滑化法の認定を受け、令和10年12月31日※2までの贈与又は相続等により、特定事業用資産を取得していること
【効果】
① 青色申告に係る事業の継続等、一定の要件のもと、その特定事業用資産に係る贈与税・相続税の全額の納税が猶予
② 後継者の死亡等、一定の事由により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納税が免除
※1後継者とは: 平成31年4月1日から令和6年3月31日までに「個人事業承継計画」を都道府県知事に提出し、確認を受けた者
※2 先代事業者の生計一親族からの特定事業用資産の贈与・相続等については、上記の期間内で、先代事業者からの贈与・相続等の日から1年を経過する日までにされたものに限る
【対象となる資産】
この制度の対象となる「特定事業用資産」とは、先代事業者(贈与者・被相続人)の事業の用に供されていた次の資産で、贈与又は相続等の日の属する年の前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上されていたものをいいます。
① 宅地等(400㎡まで)
② 建物(床面積800㎡まで)
③ ②以外の減価償却資産で次のもの
・ 固定資産税の課税対象とされているもの
・ 自動車税・軽自動車税の営業用の標準税率が適用されるもの
・ その他一定のもの(貨物運送用など一定の自動車、乳牛・果樹等の生物、特許権等の無形固定資産)
個人版事業承継税制を利用する際の手続き
個人版事業承継税制を利用するには、後継者が都道府県知事に対して個人事業承継計画を提出する必要があります。また、猶予期間を継続させるには、3年ごとに書類の提出が必要です。大まかな手続きの流れは下記のとおりです。
- 個人事業承継計画の提出
- 贈与の実行
- 都道府県知事による円滑化法の認定
- 開業届出書の提出・税制利用に関する申告書の提出
- 継続届出書の提出(3年ごと、納税猶予期間中)
個人版事業承継税制を利用する際の注意点
個人版事業承継税制の利用には、所定の要件を満たさなければなりません。後継者側に関する代表的な要件は以下のとおりです。
- 贈与日時点で20歳以上
- 贈与日以前に3年間以上、特定事業用資産に関する事業に従事している(同種・類似の事業含む)
- 贈与税の申告期限までに開業届を提出したうえで青色申告の承認を受けている
また、被承継者側に関する代表的な要件は下記になります。
- 贈与者が被承継者であるケース:廃業届を提出しているか提出見込みである、あるいは贈与日の属する年および前年・前々年に青色申告を行っている
- 贈与者が被承継者以外であるケース:贈与者が被承継者と生計を一にする親族である、あるいは被承継者から贈与・相続を受けた特定事業用資産を贈与している
上記に加えて、納税猶予を受ける贈与税および利子税に見合った担保を税務署に提供することも要件のひとつです。このように個人版事業承継税制の利用には、複雑な手続き・要件が求められます。自身のケースで求められる手続き・要件を把握するには、専門家に相談すると良いでしょう。
そこまで大きな資産はないよ・・・という方は
上記の方法では、大変だし、そこまで資産は多くないよという方もいらっしゃいますよね。
その場合は、次の二通りの方法をご検討ください。
【暦年贈与制度の利用】
贈与税は、年間110万円までは非課税です。
注意する点として、受贈者(受取る人)がもらった金額が110万円までということです。
息子が両親から110万円ずつ贈与された場合、息子の受贈額は220万円になってしまい、控除額は110万円ですから、残りの110万円は贈与税の対象となります。
贈与をする場合は、あげる人、ではなく、もらう人がいくらもらうかで考えましょう。
例えば、数年かけて息子に贈与する場合、今年は業務用の車両を贈与する、2年目は倉庫を贈与するなど、計画を立てて贈与することもできます。
この場合は、後日のトラブルを避けるため、贈与契約を作成しておくとよいでしょう。
もちろん、贈与金額は110万円でなくても構いません。業務用の車両の現在価値が120万円だった場合、あえて車両を贈与する方法もあります。
120万円-控除額110万円=10万円 10万円に対する贈与税は1万円ですから、1万円を贈与税として納付すればOKです。(車両の名義変更の費用はかかります)
【相続時精算課税制度の利用】
相続時精算課税制度は、文字どおり生前に贈与したものを、相続時に相続税の対象として再計算しますよ、というものです。
相続時精算課税制度の上限は2500万円ですから、事業用の資産が2500万円以内の場合はこの制度を利用することも考えてみましょう。
注意点は、暦年課税(110万円)と相続時精算課税制度は併用できないということです。一旦、相続時精算課税制度を選択した場合は、暦年課税制度には
戻れません。また、上限額に達するまで毎年申告する必要があるため、申告の負担もあります。
事業承継までの期間がある程度想定できる場合は、
①少額の資産は暦年課税による贈与をしておく
②一番大きな不動産等を贈与する際に、相続時精算課税制度を利用する
などの方法を検討してみましょう。
いずれにしても、一度専門家に相談してみましょう。